LUMIX DMC-TZシリーズ

 カメラの世界において、デジタルはアナログよりも身体に近い。

 フイルムカメラは、フィルムに塗られた物質が、光量に応じて化学反応することで、画像を写し取る。光の強弱だけを記録する白黒写真から始まり、RGBの光の強弱を記録できるようになって登場したのがカラー写真である。
 デジタルカメラは、画像を写し取るのは、CCDというセンサーに変わる。このセンサーがRGBの光の強弱を電気信号に変換する。このセンサーの数を画素といい、多いほど解像度のよい画像となる。
 一方、人の目の構造は、網膜に規則的に並ぶ視神経細胞が、投影された光を電気信号に変換する。その情報は脳へ伝達され、ホワイトバランスの調整、歪み補正、ノイズの低減など様々な処理が行われる。そのプロセスは極めてデジタルカメラに近い。CCDのセルは視神経細胞(セル)であり、画像処理を行う脳は集積回路と言える。
 それゆえフイルムからデジタルへの移行は、より身体的な変化であると言える。そういう意味で、デジタルカメラの登場は革命的であるはずでだった。

 しかし、現実はそうはならず、フイルムカメラの延長線上である一眼レフを頂点にデジカメは進化していく。
<br>
 そもそもフイルムカメラは、さまざまな画像処理をレンズで光学的に行わなくてはならない。そのために複雑なレンズ設計が必要で、大口径・大型になる。その上一眼レフは、レンズとCCDの間にミラーが入るため距離ができ、レンズ設計の自由度が少ない。特に建築写真で多用する広角レンズには不向きな構造である。さらに、レンズ交換可能なゆえに、レンズ特性にあわせた画像補正ができない。結果、デジタル化による恩恵である画像処理に頼れず、旧来のレンズ性能に頼らざる得ない。


 そういった事情からこれまでデジタルカメラの紹介はしてこなかった。しかし、実は新しい進化の方向を感じさせるカメラが存在する。Panasonicの「DMC-TZ」シリーズである。


 「DMC-TZ」シリーズは、高倍率ズームを搭載したコンパクトデジタルカメラである。広角からの高倍率ズームレンズを搭載すれば、当然かなりの歪曲収差が出る。しかし、このカメラは広角端からズーム全域で歪みがほとんどない。ここまで完璧に収差がないと補正していることは想像に難くない。他社も記録画像を歪曲補正している製品はある。しかし、プレビュー画面から歪曲収差を補正するデジタルカメラは「TZ」シリーズだけである。特に歪みに関しては「TZ3」がほとんど完璧で、シリーズで一番優秀である。
 ソフトウェアだけに頼った補正では、解像が落ちるが、TZシリーズは有効画素をあえて小さくすることで周辺部の画素を利用し、解像を落とすことなく歪みを補正していると思われる。実際に同じの1070万画素のCCDをもつ「LUMIX FX35」の有効画素は1010万画素だが、「TZ5」は910万画素しかなく、ある意味贅沢な仕様である。
 このような技術の成果か、プレビュー画面からリアルタイムに補正処理が行われる。リアルタイムであることの大きなメリットは動画である。これほど歪曲の少ない広角の動画をハイビジョンで手軽に撮る機材は今のところ他に存在しない。
 「TZシリーズ」の独自の発想は、デジカメの常識にない革新的なアイデアである。画像補正とレンズが補完し合い、高性能・広角・コンパクトなカメラを実現する可能性がようやく広がってきたことを感じさせる。


 今後のデジカメの進化の方向は、色・歪みの収差や周辺光量の低下を画像処理で補完し、レンズ設計の自由度を高めることでさらに高画質・広角・コンパクトに向かうだろう。そういった時代においては、レンズ性能以上に、画像処理とレンズのバランスが競われるようになる。そしてその主戦場は一眼レフカメラから、デジタルに相応しい市場に移るだろう。