森とエゾシカ革
現在、東京大学に講師として赴いております。その設計課題で、モニュメントと素材について考察する中で、森と文明の関係が気になり、様々な文献を読んで研究してみました。
シュメールから始まった文明は、その多くが誕生から衰退まで森と命運を共にし、森と共に文明が生まれ、森の喪失と共に滅んでいった、その歴史を知る中で、現在の森についても興味が湧きました。
産業革命以後、主なエネルギー源は、木から化石燃料に移行し、太古の文明のように、エネルギー源として木が刈り尽くされることは、あまり見られなくなりました。しかし、世界的に見れば、加速度的に増える人口を支えるため、回復できなくなるまで森林を過度に伐採したり、焼いてしまう森林破壊が続いています。また、身近な日本の森でも、鹿や猪が増え、既存樹の樹皮や植林したての苗木が食べられるなど、森林環境が持続できなくなる状況になりつつあります。
自分自身に何かできることがないか、しかも積極的に持続可能なビジネスの一環として。 そう考えるうちに、エゾシカ革に出会いました。
エゾシカは北海道全域に生息し、ニホンジカの亜種の中で最大です。繁殖力が強く、オオカミという天敵を人が奪ったため、森の植生を破壊し尽くすまで増加しています。そのため、森とエゾシカと人が、将来にわたって良好な共生関係を築くためには、適正個体数を保つことが重要です。平成22年度以降、個体数抑制のために捕獲されたエゾシカは、毎年10万頭を超えています。しかし、エゾシカ革は、表面に野生動物ならではの傷があったり、供給が不安定で、ほとんど有効活用されることなく、ただ廃棄されています。
自分たちの都合でオオカミを滅ぼしてしまった我々には、エゾシカの命を奪うことへの責任があると考えています。そこで、まず、自分ができることとして、このエゾシカ革を使って、SYRINXのスピーカーにしました。
エゾシカ革について
革の新たな使い方を提案するSYRINXは、この北海道の大自然の恵み「エゾシカ」の命を無駄にせず、尊重し、最後まで大切に使います。エゾシカ革の新たな可能性を広げ、多くの方にその存在を知ってもらい、エゾシカ革の有効活用を社会に広めていきたいと考えています。